公益財団法人白鶴美術館

展覧会情報

2023年 秋季展

新館

アナトリア絨毯の植物文 ―豊穣のイメージ

概要

 アナトリア絨毯の植物文といえば、チューリップやカーネーションが思い浮かびます。華やかな花文に加え、様々な花をつける生命樹が絨毯によく描かれる図像としてあげられますが、豊かな自然こそ、楽園の象徴です。絨毯に描かれた花文を中心に、生命力あふれる植物文を観察していきましょう。

主な展示品
ニッジェ/バンディルマ、アナトリア
1900年頃
ニッジェ/バンディルマ、アナトリア
ニッジェ/バンディルマ、アナトリア
1900年頃

 アーチ形を中央に配したデザインを、ミフラーブ形と呼ぶが、ミフラーブはイスラームの宗教施設において、祈りを捧げる方角を知らせる目印のことである。この作品はアーチ形が柱によって三分割された三連ミフラーブの形式をとり、その中央にはロゼッタ(花を俯瞰した形)の繋ぎ文が配され、その下には水の象徴として、水差し(ポット)が描かれている。この宗教的なモティーフとともに描かれる植物文が担うのは宗教的な清浄さや豊かな天国のイメージであろう。
 ボーダー(絨毯の外枠デザイン部分)には、ロゼッタ文とチューリップ文が交互に並ぶ。チューリップはアナトリア地域原産で、この地域の装飾文様として多用される植物文である。

キルシェヒール、アナトリア中央部
19世紀初期
キルシェヒール、アナトリア中央部
キルシェヒール、アナトリア中央部
19世紀初期

 何重にも取り囲む細いボーダー(絨毯の主要画面を囲む枠部分)が特徴的なデザインであるが、ミフラーブ(アーチ)形の上には水色地のメダル型が置かれ、内側には放射状にのびるチューリップ文が描かれている。  ミフラーブの中央には赤いカーネーションが描かれ、またその周囲にも横向きのカーネーション文が並ぶ。外側のメインボーダー(絨毯の外枠デザイン部分)とミフラーブ下に表される文様は、三輪の花をつけたみえる植物文で、アナトリア東部シヴァスの絨毯にも同じ文様が表されているが、これもまたカーネーションをモティーフにしている。カーネーションは古くからイスラーム美術に描かれてきた花である。

資料