公益財団法人白鶴美術館

展覧会情報

2021年 春季展

新館

「大きな絨毯・
小さな絨毯」

概要

 絨毯はパイルのある贅沢な敷物ですが、実用品として、その大きさが用途に由来するのは当然のことでしょう。
 例えば、当館が所蔵する最も大きな絨毯は長さが400㎝を超えるメダリオン(メダル形)文様の壮大な作品ですが、同じくメダリオンをあしらうものの容易に持ち運びが可能な103㎝のものもあります。また、当館のペルシア地域のミフラーブ(アーチ形)デザイン絨毯は200㎝を超えるものが殆どですが、アナトリア地域のミフラーブ絨毯は概ね150~180㎝程度のものです。イスラームの宗教施設の祈祷場の床に、アナトリア地域のミフラーブに類似のデザインがみられることも多いのですが、その整然と並んだアーチ形は、ひと一人が祈りを捧げる座席の一区画となっています。つまり、これらのミフラーブ絨毯は祈祷の敷物という背景があることが分かります。
 今回はそうした用途と大きさ、また、同形文様の大きさなどを比較して中東絨毯の特徴を紹介してみたいと思います。

主な展示品
ナーイーン 
ツデシク ペルシア中央部
20世紀初期 411×301㎝
ナーイーン ツデシク ペルシア中央部
ナーイーン ツデシク ペルシア中央部
20世紀初期 411×301㎝

 幾重にも連なるモチーフで構成された中央のメダリオン(メダル形)の周りに、優雅な曲線のアラベスク文様(繰り返され無限に展開する抽象化の強い植物文様)が配される。まさにイスラム美術の華に相応しいデザインの絨毯である。
 20世紀初期のナイン、殊にツデシク村で生産された絨毯は、緻密で正確な織りで知られているが、縦4メートルを超えるこの絨毯には、その技術力の確かさが示されている。

フェルテック 
アナトリア中央部 
119世紀中期 178×118㎝
フェルテック アナトリア中央部 
フェルテック アナトリア中央部 
119世紀中期 178×118㎝

 草色のメイン・ボーダー(絨毯中央画面を囲む太枠)にはチューリップが描かれる。上部の黒と赤地のミヒラ―ブ(アーチ形)、内側は黄色を基調とした文様が配され、色調のコントラストと明確なデザインによって、極めてバランス良く構成されている。ミヒラ―ブ内側にみえる円柱、その間にあるランプはイスラム宗教施設、モスク内のイメージであり、花壺は庭園、楽園のイメージを持つ。宗教的意識の強い、このデザインは16世紀、宮廷工房の礼拝用絨毯の構図に見られる。

ベルガマ 
アナトリア西部
120世紀中期 103×100㎝
ベルガマ アナトリア西部
ベルガマ アナトリア西部
120世紀中期 103×100㎝

 縦と横の法量が100㎝程の小さな絨毯。
 観者を明るい気分に引き込む作品である。発色の良い赤と藍によって明快なアクセントが付けられ、中央のメダリオン(メダル形)文様は、花の文様をリズミカルに配置することによって構成される。
 当地では、このような絨毯を花嫁道具として花嫁本人が作るとのことであり、その幸福さが作品全体に漂っている。フリンジの他に、絨毯の下部にモヘアウールという房が付けられており、キズ・ベルガマと称されるこのタイプの凝った作りの絨毯は、実際に用いられることはほとんどない。

資料