
白鶴美術館新館は、平成7(1995)年、開館60周年記念事業により開設されました。主な所蔵品は、当館第4代理事長 嘉納秀郎(白鶴酒造十代目 1934~2010)の中東絨毯コレクションをもとにしています。中東はいまだ日本人にとってなじみの薄いイスラム文化圏であり、大型、かつ染織品という脆弱な性質を持つ絨毯は、日本においてコレクションも少なく、当館はそうした意味でも草分け的な施設であるといえるでしょう。公開は年2回、本館の開館時期に合わせて、所蔵絨毯を中心とした企画展示を行っています。

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- トルコ絨毯はオスマン朝(1299~1922)に先行するセルジューク朝(1038~1194)の影響を受けて発展しました。トルコにおいては一方でオスマン朝の宮廷を中心に華麗な工房絨毯が製作されましたが、他方では、大胆で力強い色彩と幾何学的文様を特徴が、地方の村人たちの生活の中で育まれたのです。
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- 起伏に富んだ複雑な自然環境、言語と人種の「るつぼ」といわれる文化・社会的環境から生まれた絨毯は、トルコやペルシアの影響を受けつつ発展し、古くから色彩豊かな幾何学的文様の絨毯が作られてきました。そして単純化された力強い表現と大胆な色彩は、ペルシア絨毯とは異なる個性を作り上げました。
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- 華やかなペルシア絨毯の伝統は、16世紀のサファヴィー朝の宮廷工房で頂点に達しました。それは優美でリズミカルな曲線を描き出す蔓草、繊細にデザインされた草花、いきいきと表現された鳥や獣、宇宙を象徴するような豪華なメダリオン(円花文)で飾られています。その後、一時期低迷の時代を迎えますが、19世紀後半に復活し、古代の卓越した技と精緻な文様表現の伝統は、主要都市の工房に継承されます。
当館所蔵の絨毯の多くは19世紀後半から20世紀初頭にかけて織られたものです。絨毯の代名詞ともいえる
ペルシアの華麗で豪華なメダリオン絨毯をはじめ、イスラム文化圏を象徴するミフラーブ(アーチ型)を描いた絨毯、
生命樹を描いた絨毯、そして物語の場面を綴った絨毯など多岐にわたります。
そこに表れているのは中東文化の多様さである、ともいえます。